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原作:ファイナルファンタジー6(FF6)
2002年製作
作:Rannunculus(脚本:ひのと 絵:悠悟)
レオ将軍を主人公とした、彼の最期を描いたストーリー。
主な登場人物:レオ将軍、ロック、ティナ、エドガー、セリス
レオ→ティナ、エドガー&ロック、ロック×セリス
第1章(ティナ)
どうして―?
どうして―?
目の前の光景は他人の目を通しているもののように見えた。
モノクロの世界で、何かの悪い夢を見ているのではないか?
何も考えられなくなった頭の中は、たった一つの言葉が占めていた。
どうして―?
自分は何を間違ったのだろうか。
何がいけなかったのだろうか?
戦争を止めようと思った。
そのためにここに来たはずだった。
暴走した幻獣と和解するために自分の力が必要だと言われた。
自分にしかできないと思った。
人を守るという事がどういうことかよく分からなかったけれど、
愛するという事がまだよく分からなかったけれど、
何も分からなかった自分を
守ってくれた、認めてくれた、必要としてくれた、
大切な仲間達―。
世界は辛い事ばかりじゃない、
自分のこの力は戦争の道具だけじゃない、
人を守る事もできると、
希望を教えてくれた仲間達のためなら
この力をいくらでも使ってよかった。
今度こそ、人を守るためにこの力を使いたかった。
そう思ったから。
それができると信じたから。
幻獣達も分かってくれた。
誰もが平和を望んでいると。
平和は…すぐそこだったはずなのに。
それなのに。
それなのに、これは…これは、何…?
また一体、幻獣が魔石化した。
また一人、人が死んだ。
幻獣の咆哮と人の絶叫が渦巻いている。
耳鳴りみたいに耳の奥にこびりついた。
自分の視界に端に、一筋の蒼白い閃光が奔ったのが見えた。
その一瞬後に、すぐ側の家が吹き飛んだ。
血が、炎が押し寄せてくる。
何が起きているの。
わからない―。
わからない―!
「ど…して…―!」
喉に貼りついていた声をようやく出してみても、
また、悲鳴に掻き消された。
第2章(レオ)
確かに葬り去ったと思ったケフカは幻だった。
その上、ガストラ皇帝の幻影にも気がつかなかったなど、
滑稽もいいところだ。
剣士でもない狂った男に刺されて、自分は今死にかけている。
呆れ果てて自嘲しか出て来ない。
腹からどくどくと血が流れ出ていくのがわかる。
指先一つまともに動かすことはできない。
体中が焼けつくように痛んだが、不思議と意識ははっきりしていた。
その意識の中で思う。
守るべきものは何だったのか。
「ティナ…」
視線を巡らすとすぐに見つかった。
誰も踏み入れたことのない、
静謐な朝焼けのような紫の瞳を見開いて茫然としている。
ああ…。
ああ―私はまた傷つけた。
優しく、壊れ易い、繊細なガラス細工のような心をまた、
守ることができなかった。
彼女の心ひとつ、私は守ることができないのか。
傷つけたまま、終わってしまうのか。
彼女を、私では守れないのか。
彼女一人、守り切ることもできないのか。
否。
ティナ。
お前には何もしてやれなかったけれど、
この場だけでもお前を守って見せるから。
今度こそ守って見せる。
それぐらいしか、お前にしてやれないから。
この場からお前を守ったのが私だと―自惚れさせてくれ。
ケフカの高笑いが聞こえる。
狂ったその笑い声が脳裏に響いた。
そして振り向く。
ティナと目が合う。
邪悪な笑みが深まった。
守らなければ、私が。
今度、こそ。
「これはこれは。貴方のおかげで幻獣が集まったのですか。
これ以上魔石も必要ないですし…もう用済みですよ。
死んで頂きましょうか。」
ティナは無反応だった。
ケフカの声も聞こえてはいまい。
早く、早く…!
なんとか地面に手をついて、身体を持ち上げようと試みた。
力が入らないなどと思っている暇はない。
渾身の力を振り絞って顔を上げると、
彼女の仲間の一人が叫んでいる姿が見えた。
その男、ロックが左半身を血に染めて
―セリスを庇ったときに追ったのであろう―
それでもティナを守ろうと身体を引きずって近づいていくのが見えた。
ああ…大丈夫だ。
それを見て、私はひどく安心した。
きっと彼女達は、仲間の元で幸せになれる。
最期に安心できてよかった。
ティナとセリス…帝国に心も身体もずたずたにされた彼女達が
ずっと気がかりだった。
自分は傷つけたまま死ぬが、
その傷を癒すことなどできはしないが―
それでもその傷は仲間達の元で癒されるだろう。
ケフカが側にいた魔導アーマーに乗っている兵士を呼んだ。
ガシャガシャとアーマーの動く振動が身体に響く。
早く、早くしなければ。
もう少し、もう少しだけ動いてくれ。
彼女を守れたら、そうしたら…死神にこの身体をくれてやろう。
どんな死でも受け入れる。
そう考えて、
震える足を踏み出して、
ふと、私は嘲笑った。
裏切られて死ぬ―何とも自分にふさわしい死だ。
自分に嘘をつき続けて迷った挙句の死。
今更こんな死に何の感慨も浮かばないが、
最期の最期に大それた望みを持ってしまった。
誰かを守って死ぬ―そんな甘美な望みを。
足を動かす度に身体がぐらついた。
何度も崩れそうになる。
視界もかなり怪しかったが、
それでもティナの姿だけははっきりと捉える事ができた。
その姿がだんだんと近づく。
ニ度、私は自身を嘲笑った。
何だ―私も随分とエゴと欲望の塊ではないか。
今の今まで自分が嫌悪していたあの狂人と、いったい何が違うのだ。
命を賭して彼女を守ろうなどと。
彼女に自分を刻み付けようなど。
裏切られて、無様に腹を刺されて終わりだった自分の滑稽な最期を、
自分で変えようとしている。
彼女の中に自分の死に様を、殊更に見せつけて。
おそらく彼女は忘れないであろう私の死に際を―私はそれに満足するのだ。
狂った男に刺されて死にました、ではなく、
私を守って死にました、に変えられる。
だから。
「ティナ、逃げろ!早く!」
ロックがその端麗な顔を歪ませて駆け寄った。
ティナを守るのは―。
「ロック!ティナ!」
セリスの切羽詰った声が聞こえた。
また一歩、私は踏み出す。
誰の物かわからない剣を拾って。
魔導アーマーが動く。
ケフカの高笑いが響いた。
急に身体が軽くなるのを感じた。痛みも吹き飛ぶ。駆け出す。
ティナを、守る、のは―。
「ティナ!」
ロックがティナを庇うように覆い被さった。
ちがう。
ちが、う。
お前じゃない。
お前には譲らない。
散弾銃が鳴り響いた。
私の意識は真っ白だ。
眸の奥に、夜が明ける寸前の静謐な、鮮やかな空が焼きついた。
剣を振り上げる。高く掲げて。
そして。
「ショック―」
小さく呟いた。
ティナを、
ティナを守るのは
この、私だ―。
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原作:ファイナルファンタジー6(FF6)
2002年製作
作:Rannunculus(脚本:ひのと 絵:悠悟)
レオ将軍を主人公とした、彼の最期を描いたストーリー。
主な登場人物:レオ将軍、ロック、ティナ、エドガー、セリス
レオ→ティナ、エドガー&ロック、ロック×セリス
第3章(レオ)
「レ…オ将軍…?」
ロックは崩れてきた私を抱きとめた。
全身血だらけで、私でも酷いと思う惨状に、彼は息を呑む。
彼が絶望に、ひくり、と喉を唸らせたのを私は感じた。
彼の腕から震えが伝わった。
同時に、彼が何を考えたのかも伝わった。
彼の腕の中で、私は小さく笑った。
「…なんで…」
ぽつりと呟いたロックに私は微笑んだ
―少なくとも私はそうしたつもりだ。
「ティナは私が守る…。そ…れに、お前はセリスを…
幸せにしなければならないだろう…?」
そんな私に、ロックは眉をひそめた。
私の返り血を浴びて、銀の髪まで紅く染まっていた。
まだ飛び散る血が私に残っていたのか―なんて、
馬鹿なことを思った。
最期の力で放った“ショック”は、
どうやら魔導アーマーを破壊させ、それに乗っていた兵を殺し、
ついでにケフカに深手を負わすことができたようだ。
ケフカが「痛い!痛い!」と叫んでいるのが耳に入った。
私に対する罵言雑言も聞こえたが、ざまあみろ、だ。
セリスに追い討ちをかけられて、「覚えてろ!」と
お決まりの捨て台詞を吐いて退散していった。
残った帝国兵も、
ご老人とその孫の女の子―名は何といったか―が引き連れた町の人達に
追い立てられるように逃げていったようだ。
守れたのか、私は。
ただ一人を思ってとった行動だ。
彼女は。
守りたかった彼女は…。
視線を巡らすと、すぐに彼女の姿が映った。
私を茫然と見つめている。
よかった。
彼女に私の返り血は飛んでいなかった。
汚さずに済んだか。
「守…れたか…」
今度こそ、ティナを救えたその満足感に私は震えた。
たとえ、たとえ彼女を一時救っただけでも。
今までの彼女に対する私の行いを償えるわけではないのだとしても。
この場だけは、私が守る。
他ではない、私が。
それは誰にも譲らない。
彼女の命を救った、その事実が私のすべて。
ようやく知った。
私はそのために、そのためだけに生を受けたのだ。
もう身体の感覚はない。
ロックの腕の感触もない。
あれだけ流れ出ていた血が止まったようだ。
血がなくなったのか。
だが、そんな事はどうでもよかった。
彼女をこの危機から救った、それだけで。
「ティナ…」
私が小さく呟くと、彼女がびくりと反応した。
ロックが身体の向きを変えて、私からティナが見えるようにしてくれた。
ティナは相変わらず瞳を見開いたままだったが、光は宿っていた。
安心した。
「ティナ…」
もう一度呼ぶ。
もうほとんど目は見えていなかったが、やはり彼女だけははっきりと映った。
私の作った幻影かもしれない。
だって、こんなに美しい…。
「レオ将軍…。どうして、どうして?」
ティナが震える手を伸ばして私の手をとった。
両手で私を包むように握る。
彼女の指は細くて頼りなかった。
そして冷たかった。
「レオ将軍。わ…たし…私は…」
紫の双眸に涙が溜まっていた。
唇を噛んで泣くのを耐えているその姿は、消え入りそうな程頼りない。
私は力いっぱい抱き寄せて彼女を安心させてやりたかった。
が、力が全く入らない。
彼女の手を握り返す事もできない。
しかも、反対の腕はどうやら吹き飛んでしまったらしかった。
「私は…ど…すればよかったの…。ねぇ、どうして…?」
私の好きな綺麗な瞳を滲ませて、私に、どうして、と問う。
何度も、どうして、と。
私はそれに何と答えればいいのだろう。
どんな答えなら、彼女を微笑ませる事ができるのだろう。
しかし、彼女の微笑をもう見る事はないと、私は知っていた。
私が彼女の微笑を奪ったのだから。
…本当に、欲張りだな、私は。
守れるだけで、それだけでよかったのに。
それだけが全てだと思ったのに。
ティナが握る手に力を込める。
「どうして…」
何度目かの彼女の問いに、私は答えようとした。
私の中の真実を。
それが彼女の求める答えではありはしないだろうけれど。
「ティナ…私はお前をこの場から守れるだけでいい。
私のなすべき事は、お前を守る事だ。
私はここで、この場でお前を守るために生を受けた。
だから、これでいいんだ。」
それまで黙って私を抱えていたロックの腕に力が入った。
ティナの顔が歪む。
やはり望む答えではなかったか。
「私のなすべきこと…守るべきもの…。
それを求めて命を懸けた結果がこれだった。
ただ、それだけなんだ。
ティナ、人が生きている間に答えを得るものなんて、
ほんの一握りのものなんだ。
得られない事だってある。
だから…その時自分が何を成すべきなのか、
その答えを、自分に問うてみるといい―」
“どうして”
人が幾千と問うてきたことであろうか。
その答えを、私は得たのだろうか。
「自分の…成すべき事…?」
さっきとは違い、困惑に眉を顰める。
そんな顔は、幼さが残っていた。
「そうだ―」
私は大きく息をついた。
あれほどはっきりしていたティナの姿も霞んで見える。
ゆっくりと瞼を閉じた。
「それを…見つけろ、ティナ。」
お前と一緒に、探す事はできないけれど。
それでも、たとえどんな答えを得たとしても、私は見ているから。
不意に私の身体が揺れた。
ティナが私を揺さぶっていた。
相変わらずロックは黙ったままだ。
「私にも見つける事ができるの?人を愛する事が分からなくても。」
お前は難しい事ばかり聞くな。
苦笑すると、ティナが怒った気配がした。
怒るなよ…。
私だって「愛する」なんて意味は、
ごく最近まで知らなかったんだから。
「それは分からない。
死んでも見つからないかもしれない。
答えはないかもしれない。
でも、お前の心に問え。
その答えが見つかったのなら、
お前は自分の生きてきた道に後悔する事はないんじゃないのか?」
それに…お前はもう、愛する心を持っているのだから。
いや、感情をコントロールされても、失くさずに持っていたのだから。
あとは、お前がその事に気付くだけだ。
私はそれを教えてやりたがったが、
私自身、その事に気付くのが遅かったらしい。
それは彼女の仲間達に譲ろうか。
私はティナを、守る事ができたのだから。
また、身体が揺さぶられた。
…ティナ、もう、お前に教える事はないぞ。
「ねぇ…そんな、考える間もなく死んだら?
苦しいだけだったら?」
そうだな、さっきまでの私だ、それは。
「それも―そいつの最期だ。さぞかし未練が残るだろうな。」
だから、私は。
「レオ。」
不意に私の身体に違う体温が触れた。
目を開けて確認したかったが、その力も残っていないらしい。
…セリス。
「レオ!」
少し焦ったようなセリスの声。
感情のこもった、彼女の。
私の横にいた時は、そんな声など聞いた事もなかった。
お前は、見つけたな。
「セリス…もう離すなよ。
この男の手は、離すなよ。
うんと甘えて、わがままを言って、そして守ってもらえ…。
お前はもう、答えを見つけたのだから…。」
この男はきっと、何があってもお前を守ってくれる。
「ええ。ええ…!」
セリスが何度も頷いた。
その声が少し掠れていると思ったのは、私の気のせいだったのか。
握られたままのティナの手はやはり冷たいままだったが、
私の心は今までになく温かかった。
本当に最期の力で、瞼をこじ開けた。
「貴方は…後悔はないの?」
私はティナの顔を見て、微笑む事ができただろうか。
「言っただろう…?私は―」
私の答えは、彼女に伝わったのだろうか。
誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした。
それに答える事はできなかったけれど。
私が、最期に、見たのは
闇から光へ移り変わる夜明け前の、深い紫だった―。
第4章(ロック)
レオ将軍の埋葬が終わった後、
それからしばらくしてエドガー達と合流した。
俺はそれまで、彼らの事が頭の片隅にもなかった事に、
ぼんやりと気がついた。
無事に再開を果たした事にも、実感はあまり湧かなかった。
頭が新たに情報を得るのを拒否しているのか、
耳から得られる情報が脳に留まる事無く零れていった。
心が麻痺しているのか、頭が麻痺しているのか、よく分からない。
腕の中の重みがなくなって、
思考も一緒になくなったのかもしれない。
彼に献花をした時にも、頭に霞がかかったようだった。
ただ傷ついたインターセプターを見た時、
眸の奥が焼き切れんばかりに真っ赤に染まった。
憎しみが零れ落ちる程だと自分で自覚した。
傷の手当てをした方がいいと言うセリスを
やんわりと微笑んで拒絶した。
彼女の顔は、まともに見れそうになかった。
その後は自分はどうしていたのか、実のところ覚えてなかった。
何も言われなかったのだから、
不自然でない自分を演じていたのだろう。
俺達が勝手に戦いに巻き込んだストラゴスとリルムは、
もう、パーティに入っていた。
誰かと聞かれて、
機械的に紹介したのが自分だった事に今更気が付いて、
笑ってしまった。
エドガーがどうしたと聞いてきたけれど、
そんな事を聞かれても何て答えていいのか分からない。
だが、黙っているのもどうかと思って、勝手に口が動くのに任せた。
どうせ何があったかなんて、大した問題じゃない。
わかっているくせに一々聞いてくるのは不快だ。
結果はどちらも同じだ。
たった一言で言い表せる。
ああ、俺達にしかない事があった。
それを言葉に乗せようと脳に命令したら、
一度治まった憎しみが、また溢れ出すのを感じた。
この憎しみだけで人が殺せるかもしれないと思った。
その顔を見たエドガーが「酷い顔だな」と
眉を顰めたのを不快に感じた。
とにかく迸らせなければ窒息してしまう。
「レオ将軍が殺された。ケフカにな!」
何があったと聞かれて答えられるのはそれだけだった。
それだけが、俺の心の中に渦巻いていた。
あのとき、俺はティナを守ろうとした。
ティナを守るために俺はここまで来たのだから。
でも実際はどうだ。
できなかった。
飛び散ったのは俺の血じゃなく、レオ将軍の血だった。
彼はティナを守る事が全てだと言った。
実際に、ティナを守れればよかったのだろう。
でも。
だけど。
結果として―俺も守られた。
そして俺は、彼女を守る事も、彼を助ける事もできなかった。
結局俺は、その事に参っているようだった。
守るために俺は付いて行ったのに、守る事もできず、逆に守られた。
俺はまた、庇われたんだ。
あの頃と何も変わっていない。
無力なままだった。
そう、あの時と何もかも酷似していた。
俺の人生が変わった、その時と。
剣を高く掲げた姿は、まるでその身を紙に捧げるかのように神聖だった。
俺を庇った彼女の姿が、朧気に重なって消えた。
夢で何度も見た、悪夢の再現だった。
崩れてきたレオ将軍の顔は、どこか満足そうな顔だった。
俺を守った彼女も、微笑を浮かべていた。
背がぞくりと震えた。
喉がひくりと上下した。
ここは、どこだ。
これは、誰だ。
腕が、いや、もう全身が震えていたに違いない。
俺はよほど逃げ出したかった。
怖かった。
俺が抱えているのは誰だ。
腕の中の人物が、ゆっくりと眸を開いて小さく笑った。
「ティナ」と呟いたのが聞こえて、俺は現実に返った。
周りの景色が急に流れてきた。
薄暗い洞窟ではなく、混乱に陥った街だった。
俺が口を開いたのを感じた。
呟いた名は、彼のものだったろうか。
それから俺は。
守れなかった事だけを考えて、彼の最期を、ぼんやりと見ていた―。
「無念…。帝国において、数少ない理解者だったのに―」
俺が激昂したのを、軽く目を細めてカイエンが嘆息する。
皆が疲れたように頷いた。
誰も彼もが疲れていた。
エドガーの「しばらくこの街に滞在しよう」という提案に、
反対する者はいなかった。
余りに事が起こり過ぎて混乱していた。
精神と身体を癒したいと、誰もが願った。
その後の予定も決まり、解散となると、
エドガーが真っ先に俺のところに来た。
予想はしていた。
あんな態度をとった俺を、エドガーが放っておくわけはないと。
ただ煩わしさから、彼から逃げた。
「ロック。どうしたんだ。」
どうして、なんて、まだそんな事聞くのか。
「おい、ロック?」
うるさい、もう俺に構うな。
一人にしておいて欲しい。
不意に、ぐい、と腕を引かれる。
何だとエドガーの顔を睨むと彼の険しい顔が映った。
だが、不快なだけだった。
頭がぼうっとしている。
相変わらず、周りの景色はぼやけていた。
それでも、エドガーの腕が解かれる事はなかった。
「顔色が悪い。怪我をしているのだろう?手当てをするぞ。」
何も反応を返さない俺に業を煮やしたのか、
無理やり腕を捕られ、引きずられるように歩かされた。
視界が目まぐるしく変わる。
何もかもが不快だった。
「うるさい、離せ!」
腕を振り払い、わずかながらの抵抗を試みる。
こんな事で彼が引くとは欠片も思わなかったが、
彼の顔を見ると案の定、彼の眉が跳ね上がった。
眸が細められる。
普段の穏やかで、優しい顔が一変したかと思ったが構った事ではなかった。
無視して立ち去ろうとしたら、肩を捕まれた。
その手も振り払う。
「いい加減にしろ!」と低い声で怒鳴られたかと思うと、
頬に強い衝撃を受けて、一瞬意識が飛んだ。
急に地面が近づいた。
背中を強く打ちつけて、呼吸が止まる。
全身に痛みが走って、もうどこが痛いのかわからない。
悲鳴が漏れそうになって、慌てて唇を噛んだ。
「エドガー!」
セリスが咎めるように叫ぶ。
慌てて駆け寄ってくる気配がした。
…彼女には、心配をかけてばかりだ。
「立っているのもやっとなくせに、偉そうな事を言うな!」
普段とはかけ離れた低く冷たい声を放つ。
セリスが俺を抱き起こそうとして、息を呑んだのが伝わった。
冷たい表情のまま、エドガーがゆっくり歩んで来る。
俺との距離は僅かだ。
エドガーが俺の前に立つ。
刑を待つ囚人の心境はこんなものだろうか。
彼の顔が近づいた(かがんだのだから当たり前だ)。
そのまま腕を引っ張られ、無理やり立たされた。
もう腕を振り払う力は残っていなかった。
世界は回っている―いや、俺の目が回っているのか。
「エドガー、乱暴はやめて!」と言ったセリスの声も、
どこか遠くに聞こえる。
座り込みたい衝動に駆られたが、
俺の腕をつかんでいるエドガーの力の強さが、
それを許してはくれなかった。
「セリス。後で話を聞かせてくれないか。」
俺の腕に肩をまわし、彼はセリスに背を向けて歩き出した。
一度だけ振り返って笑った俺に、彼女は気がついただろうか。
俺を殴ったときとは対照的な彼の腕の優しさに支えられて、
俺は何とか飛空艇まで歩いた。
歩きながら、何度も村の人々の慟哭を聴いた。
帝国に対する憎しみの悲鳴が渦巻いている。
もう、こんな怨嗟なんて聴きたくない。
血の匂いも炎も、うんざりだった。
村を出て飛空艇に着いたとき、我知らず安堵した。
硬質な金属が今はありがたい。
飛空艇内にある医務室に連れられて、エドガーは俺をソファに座らせた。
頭がぼうっとしている。
もう、抵抗する気なんてなかった。
あれ程不快に感じたエドガーの手も、今は温かいと感じる。
なんだか泣きたくなった。
「エドガー、吐きそう。」
うつむいてそう呟くと、彼は長い溜め息を吐いた。
さっきまでの冷たく厳しい雰囲気は、欠片も残っていなかった。
「…こんなに血を浴びて、拭いもせずに放っておくからだ。
今は血が止まっているようだが、傷の手当てもしないで。」
彼の手が俺の髪に触れた。
血が髪にこびりついて固まっているのだろう。
ぱりぱりと髪が擦れる音がした。
「ロック、シャワー浴びて来い。
血を落としてから手当てしよう。一人では入れるか?」
その問いに、思わず苦笑が漏れる。
俺を子供扱いするのはエドガーの癖だ。
俺はゆっくりと首を横に振った。
甘えている自覚はある。
それをエドガーが許している事も。
再びエドガーが溜息を吐く。
今度は短かった。
半ば抱えられるように風呂に入れられた。
腕を上げる力もない俺は、まるで、糸の切れた操り人形のようだ。
動こうとしない俺を見ても、彼は何も言わなかった。
無言で服をはがす。
左の脇腹の抉られたような傷を見て、彼は目を細めた。
風呂場で俺を座らせて、シャワーをかけた。
途端にむっとするような血の匂いが立ち込める。
むせ返るような血の匂いに、吐き気がまた込み上げてきた。
シャワーの水が排水溝に流れていくのを、ただじっと見ていた。
流れていく水が赤色だったのが、段々薄れていった。
やがて石けんの泡も混じるようになった。
あれ程強かった血の匂いが石けんの匂いに変わって、
消えていくのを感じた。
―ああ、こうやってレオ将軍の「形」が消えていくのか。
腕に抱えていたレオ将軍の重みは、違う腕の強さに取って代わり、
もう残っていなかった。
こうやって忘れていくのだ、自分は。
彼女の重みだって、俺は。
守れなかったくせに。守れなかったくせに―。
「―っ…!」
喉が塞がる。
呼吸が上手くできない。
苦しい、苦しい。
だけどこの苦しさも、忘れるのだから。
誰かが言っていた。
忘れる事は、神の恩恵だと―。
「…うっ…くっ…」
嗚咽感に息が詰まる。
吐き出してしまいたい。
胸の中の閉塞感も、苦しさも。
でも俺にそんな資格なんかあるわけなくて。
「うあっ…」
苦しくて、それでも吐き出す事なんか許されない。
また、過ちを犯した俺なんかに、都合良く恩恵に与っている俺に―。
呼吸をするのは、こんなに難しかっただろうか。
さっきまで俺は、どうやって呼吸をしていた?
「…っ、ぐ―!」
陸に打ち上げられた魚のように喘いでいた俺の口の中に、
エドガーの意外に細く、長い指が突き込まれた。
俺の嘔吐中枢を刺激して、無理やり吐かせる。
喉の塞がりが一気に駆け抜けて、俺は激しく嘔吐した。
胃が空になっても吐き続けた俺に、
「何も我慢する事はない。楽になれ。」と、
俺の背中をさする彼の手の優しさに泣きたくなった。
俺の頬に流れるものが、
シャワーの湯なのか、それとも俺の涙なのか分からなかった。
あれ程苦しかった嗚咽感も閉塞感も、
ただ優しい彼の手だけで消えていった。
これは、忘れた事になるんだろうか。
許される事なのか―。
できるなら。
ティナを―俺達を守り切ったあの男に、彼の地で眠る彼女に、
訊いてみたかった。
優しいこの男は、何も聞かないで、何くれと世話を焼いた。
俺が何を考えているのかなんて、
この男には手に取るように分かるのだろう。
いや、ただ単に興味がないだけかもしれない。
ガーゼに消毒液を染み込ませる。
つんとした匂いが鼻をついた。
「染みるぞ。」
抉れた傷にガーゼを当てる。
ぴり、としたその独特な痛みに顔を歪める。
エドガーが苦笑したのが気配で分かった。
「もう落ち着いたのか。」
包帯を巻きながら、彼はそっけなく聞く。
それが心地よかった。
今なら訊けるだろうか。
あのどす黒い憎しみも、息が詰まる苦しさも噴出させないで、
訊けるだろうか。
「なぁ、エドガー。」
深呼吸を一つして、瞼を閉じる。
また、深呼吸。
―大丈夫、訊ける。
問いかけて間を置いた俺に、
彼は一度手を止めて俺をちらりと見たが、それも一瞬だった。
無言で続きを促す。
レオ将軍の最期の問いを、彼はどう答えるのだろう。
この若き砂漠の王は、自分に何と問いかけるのか。
「お前の…なすべき事ってなんだ?
守りたいって思うものは?
お前はその答えを、自分の心に何て問う?」
包帯を固定させて、俺の膝をぱんと叩いた。
手当ては終ったという事なのだろう。
それからエドガーはゆっくりと立ち上がり、俺を見下ろす。
どうしても彼の答えが聞きたくて、俺は眸を合わせた。
彼はふっと笑った。
「私の答えなど訊いてどうする?
それはお前が、自分で考えるものだろう。」
「でも、俺は知りたい。」
いつでも自身に満ちていて。
揺らぎなんてなくて。
自分の心に問うとき、この男は。
昼間の光景が重なる。
ただ神聖で、まるでそこだけが切り取られたかのような、
絵画のような、あの。
「私のなすべき事も、守るものも、ただ一つ。」
迷いのない声で、瞳で。
彼の心の中には、常に―。
「私が何かを問うとき、いつでも心にあるのは、
フィガロ―私の国だ。」
何千、何万もの民を統べる王者の心。
そして、その覚悟。
その姿に、誇らしげに高く剣を掲げた、
神々しいとさえ感じた男の姿が重なった。
ああ、そうか―。
守るべき事、己のなすべき事。
その答えは誰もが違えど。
わが心に問いかけに答えを得た人の強さは。
何者にも侵されないのだと。
自分を見失う事はないのだと。
自分だけの希望を持っているのだと。
そう理解した途端、俺の思考が唐突にクリアになった。
「私の答えを聞いて、お前は何かを得たのか?」
そんなに俺の表情に露骨に表れていたのか、彼が意地悪く聞いてくる。
俺はゆっくり首を振った。
虚勢を張る理由も、むきになる理由も、必要ではなかった。
エドガーの答えなんて、本当はどうでもよかった。
ただ、その強さを見せてほしかった。
彼が俺の頭をそっと撫でる。
「お前はその問いに何と答えた?」
彼の両眼の蒼天に、俺の琥珀が映る。
その深い蒼に引き込まれそうになって、俺は目を閉じた。
彼の瞳から逃げたのではなかった。
彼に全身をかけて伝えたかった。
再び瞼を開けた。
蒼天に映った琥珀に、気負いはなかった。
伝わるだろうか―。
伝わればいい―。
「俺は、その答えを…」
眸を逸らす事を、自分に許さなかった。
あの誇り高き剣士には示す事はできなかったけれど。
彼と同じ強さを持つこの尊い砂漠の王者には、伝わってほしかった。
「その答えを、見つけてみせる―!」
我が心に問いしとき、揺るぎ無い確固たるただ一つのものを。
必ずこの手にしてみせる。
「ロック」
そのときの、彼の微笑を、
俺は一生忘れる事はないと思った。
そして、俺の心にある、
ただ冷たく凍り付いて瞼を閉ざしたままの彼女が
わずかに微笑んだかもしれないと、
俺は何故思ったのだろう。
ふと、窓から差し込んでいた光が唐突になくなり、部屋が暗闇に落ちた。
俺はこれが戦いの終止符ではなく、世界の激動の始まりだと、
もしかしたら知っていたのかもしれない。
第5章(ティナ)
私は答えが欲しかった。
彼はいつも、私の問いに答えを返してくれたけど、
最期に問いかけた答えは、もう二度と訊けなくなった。
それから、ずっと探しているのに、
まだ、見つからない―。
「ティナ。」
不意に話しかけられて、びくりと身体を震わす。
振り返ると、苦い顔をしたセリスが立っていた。
その手には花束が抱えられていた。
白く、綺麗な花。
何の花なのか、私は知らなかったけれど。
「また、ここにいたの?」
セリスは彼の墓標に花を添えて、静かに瞼を閉じる。
私も彼女に倣って黙祷した。
どのくらいそうしていたんだろう。
きっと短い間だった。
彼女がゆっくりと私の方に振り向いた。
「しばらく、ここに来れなくなるから…。」
あれからずっと、ほとんどの時間をここで過ごしていた。
彼の眠るこの場所にいれば、
答えが見つかるかもしれないと思ったから。
そして、明日にはこの村を発つ。
空に浮かび上がった大陸に向かう予定だった。
今度はいつここに来れるか分からなかったから、
時間の許す限り、ここにいたかった。
「そうね…。今しか、きちんと花も添えてあげられないものね。」
そう、哀しそうに呟いた彼女は、とても痛々しかった。
彼女が一番、彼と共に過ごしてきた時間が長いのだから。
彼女が今どんな思いをしているのか、想像もつかない。
村から奥まったこの場所は、
帝国の襲撃から受けた傷跡はほとんどなかった。
ここなら彼もゆっくりと眠れると、この場所を決めたのは、
そういえばセリスだった。
帝国兵の残党を追いやったのも彼女だった。
私はただ茫然として、
「どうして」と問うばかりで、
何の力にもなっていない事に気が付いた。
だから彼は、死ななければならなかったのだろうか。
彼女のような強さがあれば、彼は死ななかったかもしれない。
あるいは、彼の問いの、答えを見つけていれば。
セリスは、その答えを教えてはくれなかった。
彼の墓標を立てて、一番に聞いた事だった。
哀しそうに微笑うばかりだった。
その瞳は常に、ロックを映していた。
「まだ、見つからないの。こんなに探しているのに。」
私が彼らに初めて教えてもらった感情は「嬉しい」だった。
ロックとエドガーが私の力を受け容れてくれた時。
この村で帝国に無残に殺されていく人を見て、
私達を助けようとして魔石化された幻獣達を見て、
私は「哀しい」という感情を持った。
仲間達と他愛ない話で笑い合う時、「楽しい」と感じる。
帝国の横暴を見て、「怒り」を持った。
目に見えない感情達に、
私の心の中で名が付いたのはいつからだったか。
それをすんなりと受け止められるようになったのは。
それでも、「愛する」は。
言葉は知っていても、
心の中のどれに名前を付けていいのかわからない。
どれにも当てはまるようで、どれにも当てはまらない。
「愛する」という事が分からなければ、この答えは得られないのか。
それとも、この答えが得られれば、
「愛する」という事がわかるのか。
守るべきもの、なすべき事、それは何なのかを心に問う度に、
その答えではなくて、
仲間達の姿と、
背を向けて私の前に立つレオ将軍の姿が浮かぶ。
それが何を意味しているのか、今の私にはわからない…。
「きっと見つかる、なんて、今の私には言えないわね。それに…」
自分の考えに深く沈んだ私を見て、セリスが苦笑を漏らす。
私は意識を彼女に向けた。
彼女は苦り切った表情で、重そうに口を開く。
冷たい風が一筋、吹いた。木々がざわめく。
「答えを見つけても、私は怖くなってしまった…。」
彼女は俯いて、自分の身体を抱きしめる。
その弱々しい姿に、私は軽く目を見張った。
「怖い」は、私の中で、一番最初に名の付いた感情だったと思う。
唯一、自分で名前を付けたものだった。
だから、彼女が「怖い」なんて言ったのが信じられなかった。
彼女の口から初めて聞いた気がする。
「どうして怖いの?」
聞いてはいけなかったかもしれない。
それでも、私は聞いてしまった。
「そうね…。
私はこの答えを失くしてしまったら、生きていけるかわからない。
自分がどうなってしまうかわからない。
前は…こんな事はなかった。
失うものなんて、私にはなかったから。
こんなに弱気になる事なんてなかったのに…。
それが本当の強さじゃないって事はわかってるわ。
前まで強かっただなんて、少しも思ってない。
それでも、怖いなんて思う事はなかった。
私は、私の心には、いつだってただ一つのものが占めている。
なすべき事も、守るべきものの答えも得たけれど、
それを失くしてしまったら…
私は二度と、答えを得る事なんてできない。」
セリスの腕に力が入ったように見えた。
体が震えているのも、私の見間違いなんかじゃないと思う。
彼女の答えが何なのか、私は少しだけわかった気がする。
そして、一度得た答えを、失くすかもしれない事も。
失くしたらもう二度と、返って来ないものもあるという事も…。
「だから、私は怖い。
そして、別の答えが欲しくなった。
どうしたらその答えを失わないで済むのか、
私はその“答え”が欲しい。」
そう呟くようにして言った彼女には、
それでもその答えが見つかると、私は思った。
…違う。
“彼”と共に。
そして、そんな彼女が羨ましかった。
「でも、セリス。“ロック”と一緒に見つけるんでしょう?」
彼女の瞳が驚きに見開かれた。
でもそれは一瞬で。
「そうね。
彼が傍にいるなら、彼を感じられるなら、
私はきっと、どこまでも強くなれる。」
花が開くようにふわりと微笑んだ彼女のその顔は。
私が今まで見た彼女の笑顔で、
一番、自身に満ちて綺麗だと思った。
「ここにいたのか。」
その声に振り向くと、エドガーが軽く微笑ながら立っていた。
彼のこの顔は、いつ見ても安心する。
「私達を探していたの?」
「ああ。明日の事について、最後の確認がしたいから呼びに来た。」
言いながら、彼は白い花に視線をやった。
穏やかに目を細める。
彼のこの独特の表情が、私は大好きだった。
彼はそのまま静かに瞳を閉じて、眠るレオ将軍に黙祷を捧げた。
彼は何か呟いたけれど、私には聞こえなかった。
「さぁ、行こうか。皆もう集まっている。」
セリスが頷いて、彼の後について歩く。
彼女は後ろを振り向かなかった。
私は一度、振り向いた。
そして、我が心に問う。
やっぱり、仲間の姿と、レオ将軍の…
彼が剣を掲げた、背中が目に浮かぶ。
今は彼のこの姿は、それは綺麗で、ひたすら澄み切って高尚で…
だから私が手を伸ばしても彼に触れる事はできないけれど。
いつか。
答えを得たら、彼に手が届くだろうか―。
END.