通販申し込みや、作品・フリートークの感想を送る際は、
ブログのプロフィールに記載されているホームページへアクセスし、
そちらにあるメールフォームからお送り下さい。
感想以外を送る時は、メールアドレスの記入は必須です。
メールフォームでなく、メールで送りたい方は、
用件を書いた上で、
メールフォームから、メールアドレスを問い合わせて下さい。
メールフォームはこちら↓
http://form1.fc2.com/form/?id=187205
Rannunculusさんへのご意見・ご感想・お問い合わせ先も、
メールフォームからお問い合わせ下さい。
ヒマワリの恋
【原作:『名探偵コナン』】 コナン←哀
製作:KIKI
そんなにやさしくしないで…
そんなに気にかけないで…
そんなに話しかけないで…
そんなに…そんなに…その瞳で私を見つめないで…
その度に苦しくなる。
その度に切なくなる。
その度に愛しくなる。
ああ、どうすればいいの?こんな気持ち…。
今日もまた思いが募る。ただあなたに会うだけで。
だめ。気づいちゃ。決して。
「どうした、灰原?体調悪いのか?」
朝の登校。うつむいていた私に話しかける。
「別に。」
彼の顔を見て、また、そらす。
分かっているのよ。気にしてもどうしようもない事くらい。
「あんま、無理すんなよ。オメ-が倒れた何にもならねーし。」
その言葉に少し嬉しさと寂しさが混ざった。
何かを言い返す間もなく前から3人の声が前方から聞こえた。
「コナンく-ん、おはよう。灰原さんもおはよう。」
「おはようございます。コナンくん、灰原さん。」
「おっす、コナン、灰原。」
元気のいい3人が今日もまた、挨拶をくれる。
途中まで、彼と私の二人きりの登校。
ここから、いつもの5人で登校することとなる。
「おー。」
彼が言う。
「おはよう。みんな。」
私も続けて言う。
そのあと、不意にため息をもらし、またうつむいてしまった。
そしたら、
「どうしたの、灰原さん。何か元気ないよ?」
そんな私を見ていたのか、吉田さんが尋ねた。
「夏風邪ですか?灰原さん。」
そう、今は夏真っ盛り。
立ち眩みがするほど太陽の光がまぶしい。
蝉の声が絶えず耳に入る。
円谷くんの一声に、まさかみんなにそんな風に見えているなんて思わなく、
何て言おうか少し戸惑い、
「ちょっと、寝不足なだけ。ありがとう心配してくれて。」
少し笑みを見せてそう答えた。
「風引いた時は、オレは、うな重を腹いっぱい食うと直るぜ。」
「それは元太くんだけじゃないんですか?」
「やだ、元太くんったら。」
そんな会話を3人でしているのを後ろから眺めていた。
そんな光景が少し微笑ましく、笑みをこぼしていた。
今はとても平和。ほんとに平和そのもの。
組織にいたときのことをふと思い出した。
あの束縛されていた日々。
自由を求めることすら無意味の思えたわ。
もちろん、自由になりたいとも思わなかったケド。
でも、ある意味私には楽だったのかも知れないわね。
何も考えなくて済むもの。
与えられた事をやるだけでよかった。
今は薬を飲んで灰原哀という、もう一人の自分をつくっている。
この「灰原哀」になってからは、いろんな事が新鮮だわ。
今まで知らなかったこと、知らなかった感情があふれてくる。
それは、嬉しくもあるけど、苦しくもあるのよね。
でも、気づいちゃいけない。あの気持ちに。
そうよ、気づいたら最後。
きっとどうすればいいのか分からなくなる。
気づいたら、気づかれる。彼に、この気持ちが……
「…ら、…原!灰原!!」
「えっ!?」
彼の声に少し驚き振り向いた。
「ったく、そんなに体調悪いんだったら、休みゃいーのによ。」
「あら、心配してくれてるの?ありがとう。でも、私に優しくしたところで解毒剤の開発が進むわけじゃないわよ。」
「あのなぁ。」
教室に入る。太陽の光がいっぱい入るこの教室。
私の心の中とは反対にすごく明るい。
ほんと、眩しいくらいね。
椅子に座る。
小林先生の声が教室中に広がる。
一時間目の授業は国語。
一年生の国語の授業もなかなか興味深いものがある。
そしてまた一つため息。
「おい、ほんとに大丈夫なのか、灰原?」
彼が小さな声で私に語り掛ける。
「あら、さっきの登校の時といい、やけに優しいわね?何をお考えなのかしら?」
「あん?だーかーらー、別に何も考えてねーよ。ったく、人が心配してやってんのにマジでかわいくねーな。」
「江戸川くん!!」
小林先生の声で二人の会話が止まる。
「38ページから読んでくれる?」
小林先生は彼の横で少し立腹しているかのように言った。
「はーい…」
彼は渋々席を立ち朗読を始める。
周りの何人かはクスクスと笑っているのが聞こえた。
私はまたため息をした。
今の彼の言葉も、登校の時の彼の言葉も嬉しさと寂しさが交じり合って苦しくなる。
彼の心配は決して「私」じゃない。
APTX4869の解毒剤を作る一人の「科学者」に過ぎないのだわ。
別に「私」じゃなくても彼は今の言葉をかけるのよ、きっと。
でも…でも…
「はい、ありがとう。じゃあ、次は…」
彼の朗読が終わった。
「ふー。」
「クス。」
「何だよ。灰原?」
「別に。」
視線を彼から戻し、そして、横目でふと彼を見る。
でも…それでも…。
フッ、馬鹿よね。彼にはあの子がいるのに。
そう、私とはまるで正反対。
明るくて、気さくで、恋に不器用だけど、深く深く彼を思う温かい心。
どんなに傷ついても、彼を愛しつづける純粋な心。
ほんと、かなわないわ。
でも…あんな言葉でも…彼にとっては何の意味もなくても…たかが数秒でも…
私の心を包み込む。
私の心を占領する。
「…っ!!?」
いけない。ふと我に返った。
ダメ。気づいちゃダメ。
違うの。
人に優しくされたことがないから、こんな気持ちになるのよ。
「嬉しい」という気持ちなのよ。
それ以上になっちゃ…ダメ…
下校。
いつもの帰り道。夏の帰り道。
まだ日は高い。青い澄み切った空。真っ白な雲。…濁った色の私の心。
途中、吉田さんと円谷くん、小嶋君と別れ、彼と二人の帰り道。
特に何も話さず、ただ歩いていた。
もしかしたら、彼は何か話してくれたのかもしれないけど、
私が聞いたのは、この一声。
「とにかく、今日はゆっくり休めよな?」
私はうつむいたまま。一段と濁る心。
苦しいのよ、その優しい言葉が。
「んじゃ、オレ用あっから。」
そう言って駆けて行った。
「まだまだ,暑いわね…。」
ふと見上げた空。夕焼けが数時間後で見れる帰り道。
「ただいま。」
「お帰り。哀くん。どうじゃった、今日の学校は?」
「特に変わったことはなかったわ。でも少し疲れたからもう休むわ。夕食もいらないから。」
「お、おい、哀くん。ほんとに大丈夫なんじゃろーな?」
博士がそう言い終わるとほぼ同時に私は部屋に入り、ベッドに横たわった。
……どうすればいいの?こんな気持ち。
明日もまた思いが募る。ただあなたに会うだけで。
「ん…。」
頭を少し押さえ時計を見た。
「6時…?…フフ。私…あのまま寝ちゃったのね。」
キッチンの方に足をはこぶといい匂いが漂ってきた。
「おはよう、博士。」
「おお、哀くん、体の調子はどうじゃ?」
「ええ、もう何ともないわ。それより博士。朝食でも作ってるの?」
「そうじゃ。哀くんが元気になるように特製の朝食じゃ。」
テーブルに置いてある、ほぼ出来あがっている料理を見る。
料理自体は、卵焼きやらタコさんウインナーやら、
まるで小さい子のお弁当のおかずのようだった。
はたから見れば「普通」の朝食に過ぎないのだが、
博士が一生懸命私のために作ってくれた朝食は「特製」に他ならなかった。
朝食の準備を済ませ、2人でその特製の朝食を食べる。
「そうじゃ、哀くん。今日は暇かね?」
突然博士が尋ねた。
「えっ!?」
「何かあるのかね?今日は第2土曜日で学校はお休みのはずじゃろ?」
「え…ええ、一応あいてるわ。」
「そうか、それは丁度よかったのう。」
そうだったわね。今日は休みだったわね。
そんなことも分からなくなるほど、思いつめていたにかしら。
でも、今日は彼に会うこともないわけよね。
今は、彼の顔を見るだけで胸が苦しくなる。
会うこともなければ幾分かは楽になるのかしらね。
でも、会うのが辛いのに、会えない日はもっと苦しいのよね。
ホント、どうにかしなければならないのに、どうすることも出来ないこの想い。
とにかく彼のことは考えない方がいいわね。
今日は一人の「科学者」として、解毒剤を進めることに専念しなくちゃ。
そんなことを思い巡らしていた時、さっきの博士の言ったことが気にかかった。
「ねえ、博士。」
「なんじゃ、哀くん。」
箸の動きが止まる。
「さっき、丁度よかったって言ってたけど、それってどういう事?」
「おお、そうじゃった、昨日みんなから電話があったんじゃ。」
「みんな?」
「歩美くんたちじゃよ。それでみんなでドライブでも行こう、ということになったんじゃ。みんな哀くんのことを心配しておったしのぅ。」
少しドキッとし、箸が止まった。…“みんな”…
「ええ、わかったわ。」
ためらいながらもそう答えた。
「そうか。そうと決まったら、さあ支度じゃ、支度じゃ。えっと免許証はどこに置いたかのぅ…。それから…」
博士の様子をこちらから見て
「クス。」
笑い声が少し漏れた。
朝食の後片付けをしながら思った。“みんな”という事は、休みの日にも彼に会わなくちゃいけないのかしら。困ったものね。
“みんな”でドライブ…か…
窓の外を見た。冴え渡る青空。気温もかなり高くなっている。
博士が支度を始めてそれから約2時間後。
丁度私が外に出た時
「灰原さーん、おはよう。体の具合はどう?大丈夫?」
声にする方に振り向いてみるといつもの3人が走ってくるのが見えた。
「ええ、もう何ともないわ。」
「よかったー。」
吉田さんのかわいらしい笑顔がこぼれた。
「今日は本当にいい天気ですね。」
「絶好のドライブ日和だぜ。」
「そうね。」
円谷くんと小嶋君の声にうなずき、空を見上げた。
ほんとにいい天気。雲一つないわね。
「あれ-、コナンくんは?」
吉田さんは寂しそうな声でそう言いあたりを見渡した。
すると、後方から
「なんだオメーら、やけにはえーじゃねーか。」
その声に少し耳を傾けながらも、体が顔を合わせるのを拒んだ。
「博士~。まだ車のキー見つからないの?」
そう言って、彼らから離れて家の中に体を運んだ。
数分後、私がキーを見つけ、博士と共に外にでた。
「まったく、遅いですよ、博士。」
「そうだよ。みんなもう来てるのに。」
「おれ、なんかもう腹減ったなぁ。うな重くいてえ。」
「まったく、元太くんは食べ物のことばかりですね。」
「なんか文句あんのか、光彦。」
「もう、やめなよー。元太くんも光彦くんも。」
3人のこんな会話を後ろから聞いていた。
すると、
「ったく、あいつら、何であんな元気なんだ?」
彼が私のそばまで歩み寄る。彼の横顔を見た。
「あなたは元気っていう感じではなさそうね?」
「ああ、夜遅くまで本読んでたからな。少し寝不足なんだよ。」
「あら、別に無理して来なくてもよかったのよ。ただのドライブらしいから。」
すこし嫌味っぽく言った。
「まーな。」
「コナンくん、灰原さん、早く!早く!」
もう車に乗りこんでいた吉田さんが叫んだ。
円谷くんも小嶋君も、そして博士ももうすでに車に乗りこんでいた。
「ああ。」
そう言って彼は車に乗り込んだ。そんな彼を無意識に目で追っていた。
「灰原さんも早く!」
吉田さんの声で我に返った。
「ええ。今行くわ。」
私が車の前に乗ると
「しゅっぱーつ!!」
3人が声をそろえていい、博士がエンジンをかけ車が動き出す。
何でも博士は先日洗車をしたらしく、車はかなり綺麗だ。
もちろん今日のためというわけではないのだが、
綺麗な車でドライブするのは気分がいい。
車を出してすぐ高速に入った。
みんなとても楽しそうに見える。
もちろん憂鬱な私と乗り気でない彼を除いて。
「なぁ博士、何も高速に乗らなくてもい-んじゃね-か?」
後部の座席に3人と座っていた彼が身を乗り出して博士に尋ねる。
「何を言っとるんじゃ、もとはと言えば新一、おまえが…」
「お、おい博士!」
何かはわからないけど彼のこの慌て振り。
このドライブにはどうやら彼も関係があることが分かった。
でも、それとなしに聞いてみた。
「何?このドライブで何かたくらんでいるの?」
「別になんでもねーよ。」
彼はそういうと乗り出していた体を後ろに戻した。
それから数時間、間に休みを取り、車は走りつづけた。
ピー,ピー,ピー
車のバックする音が遠くに聞こえた。すると、
「ほれ、着いたぞ。」
博士がそう言って、目が覚めた。
いつのまにか寝入ってたみたいだった。私だけなく、彼もそして3人も。
最近ろくに寝てなかったから、なんだか気持ちがよかった。
体を起こしてみると、
「わぁー、すっごーい。」
「まさに絶景ですね。」
「うぉー、すっげー。」
3人が一目散に車からおり駆け出す。
私は、車の窓から息をするのも忘れるくらい、その光景に心が奪われた。
一面のヒマワリ畑。
「すっげー数だな。」
後部座席にはまだ彼がいた。そう言って彼も車から降りた。
最後に私と博士が降りる。
降りたところは高台になっていて、その光景を上から眺められる絶好のところだ。
高台の端には階段があり、下にも下りられるようになっているらしい。
「どうじゃ、哀くん。」
「すごいわね。こんな所、はじめて来たわ。」
地平線のどこまでも続きそうなくらいのたくさんのヒマワリ。
夏の太陽をいっぱい浴びて、どのヒマワリも大きく育っている。
今が一番の見時でもあるかのように、
そのヒマワリのどれを見ても、綺麗に咲いていた。
「ほんと、綺麗ね。」
「気に入ってもらえたかの、哀くん。」
「ええ、とっても。ところで、あの子達は?さっきから姿が見えないけど。」
「子供達なら、ほれ、あそこの階段で先に下に降りていったはずじゃ。下はこのヒマワリ畑の中を歩けるはずじゃ。哀くんも行くかね?」
「私はもうしばらくここにいるわ。それから下に行くから。ここの景色、すごく綺麗だし。」
「そうか、それじゃ、先にいっとるぞ、哀くん。」
そう言って博士は走ってあの子達の跡を追っていった。
確かに、あの3人じゃ、何をやらかすかわからないから、心配になるのも分かる気がした。
「おめーにも惹かれるものがあるんだな。」
後ろから不意に彼が言った。
「あら、いいでしょ。それよりどういうこと?さっきの車の中での会話。」
「ああ?だから、車でも言ったろ?別に何も考えてねーよ。ただ、昨日博士から電話があったんだよ。」
「博士から?何て?」
そう尋ねると彼は昨日のことを淡々と話始めた。
ルルルルルル…ルルル…
「はい、毛利探偵事務…」
「おお、新一君か。丁度よかった。」
「何だよ、博士。何か新しい発明品か?」
「いや、そうじゃないんじゃ。哀くんのことじゃよ。」
「灰原?」
「おお、そうじゃ。最近なんだか元気がないみたいでのぅ。新一、なんか心当たりないか。」
「別に特に何も思いあたらね-よ。まぁ、確かに最近あいつの様子はおかしいけどな。」
「何とかならんかのぅ、新一。何とかしてやりたいんじゃが…。」
「んなこと言われてもなぁ。んじゃ、明日休みだし、どっか連れてきゃい-んじゃね-の?気もまぎれるだろうし。」
「おお、そうか。それはいい考えじゃ。じゃ、明日家で待っとるからの。早く来るんじゃぞ。」
「お、おい博士。オレも行くのかよ。」
「あたりまえじゃ。ちなみに子供達もわしから誘っとこうかの。それじゃ、新一。明日待っとるぞ。」
「お、おい博士、博士。」
ツーツーツー
「ったく、切っちまいやがった。何でオレまで行かなきゃならねーんだ?」
「…っつー訳だよ。」
「なるほどねえ。」
そういえば、朝、博士は吉田さん達から電話があったって言ってたけど、あれはウソね。
「どうせ組織のことでも考えてたんじゃね-のか。」
「…そうね。組織のことを考えてたのなら、まだよかったでしょうね。」
「はぁ?」
やっぱり何も分かってないわね。工藤くん。
「ほら、早く下に行った方がいいわよ。工藤くん。あそこで吉田さんが手を振ってるわよ。早く行きなさいよ。」
「オメーはどうすんだよ?」
そう言った彼の顔は私を見ていたと思うが、私は敢えて彼の顔を見ようとはしなかった。
「もう少しここの景色を堪能してから行くわ。」
「そっか。」
彼はみんなのところへ駆けて行った。
…それにしても、ホントに一面のヒマワリ畑ね。
夏の花と言えばやっぱりヒマワリかしら?
花は見ていて、無条件で嬉しくなるものよね。
心が洗われる感じね。
博士がここに連れてきたのも、そういう理由かしら。
どういう理由にしても、博士にも心配かけちゃったのね、私。
だめね、周りが見えなくなっちゃうなんて。
でも、今の私にとってヒマワリは、なんだか胸が苦しくなってくるわ…。
ここにあるヒマワリ全て、太陽を見つめているのよね。
ヒマワリには太陽は必要不可欠。
太陽なしでは生きていけないのよ。
でも、太陽は明るくて…みんなの人気者。
そう。みんなの太陽だから、決してヒマワリだけには振り向かない。
もちろんヒマワリに振り向いてくれるときもあるんでしょうけど。
いつもいつもヒマワリだけを見ていてくれるわけじゃない。
でも…ヒマワリは太陽を見つめつづける。
曇りの日でも雨の日でも太陽を探し、太陽を求めつづける。
片思い。
その想いが決して叶わないことを知っている。
叶わない恋でも、命がなくなるその日まで、太陽を追いつづけるのよね…。
ズキッ。
「っ……。」
どうして…?どうして、こんなにも胸が苦しいの?
もしかして逃げてるの、私?
この気持ちから逃げたくて、逃げたくて…
だから気づかない振りをしているの?
弱いわね…私。
ヒマワリはこんなにも強いのに…。
でも…逃げたくもなるわね。
こちらの太陽はもう相手を見つけているもの。
ヒマワリとは違う相手を…ね…。
「さてと、みんなの所に行こうかしら。」
端の階段をおり、みんなの所に合流した。
日がだいぶ傾いてきた。夕日がヒマワリを輝かせまた一段と美しく見える。
「さて、そろそろ帰ろうかのぅ。」
「えー、歩美、もう少しここにいたい。」
吉田さんが少し駄々をこねたとき、
「そうだ、お嬢ちゃん、このヒマワリをあげよう。」
さっき私が階段で下に下りていくときに会ったおじさんが言った。
どうやらこの人がヒマワリの世話をしたりしているらしい。
「ほら、どうぞ。」
「わぁー、ありがとう。おじさん。」
小ぶりの花のヒマワリをもらっていた。
丁度手のひらくらいの花の大きさだった。
どうやら、大きいものだけがヒマワリというわけではなさそうだ。
「はい、こっちのお嬢ちゃんも。」
「えっ!?」
突然のことでびっくりした。
私の目の前にも、かわいらしい小さなヒマワリが揺れた。
「でも…。」
少しためらった。
「灰原さんももらいなよ。ほら、すっごく綺麗だよ。」
「じゃあ、いただこうかしら。」
そう言って、わたしはおじさんからヒマワリを受け取った。
ホント、私には綺麗過ぎね。
「ほーら、ぼうずたちにはこれをやろう。」
おじさんはポケットに入れていたものを出した。
小さなヒマワリのキーホルダー。
どうやらこのおじさんは、かなりのヒマワリ好きみたいだった。
普通ポケットからキーホルダーなんてでてくるものじゃない。
おじさんはそう言って3人に渡した。
それから車に乗りこんだ。
おじさんに手を振りようやく私達は帰ることとなった。
「へー。オメーでもそーゆーのもらってうれしいんだな。」
車を出したときからずっとヒマワリを見ていた。
30分ぐらいは後部座席で今日のことで盛り上がっていたが、
子供達が寝てしまったらしく、ずいぶん静かになった所、彼の声が聞こえてきた。
「ヒマワリは…」
一瞬言うのをためらった。でも、
「ヒマワリは強いのよ。誰かとは違って、辛いことから逃げないのよ。」
「はぁ?何言ってんだ、オメー。」
「…」
私、逃げてたのよ。自分の気持ちから。
「オメーら着いたぞ。起きろよ、歩美、光彦、元太。」
彼が起こす。3人とも渋々起きた感じだ。
「今日はありがとうございました、博士。」
「コナン、灰原、夕飯いっぱい食えよ。」
「まったく元太くんは食べ物のことばかりですね。」
「なんだと、光彦。」
「じゃあ、月曜日にね。バイバイ、コナンくん、灰原さん。」
そう言って3人は帰っていった。
「どうしてあなたがまだ乗ってるのよ。」
「別にいーだろ。博士ん家からのが近いんだよ。」
少し経って博士のうちにたどり着いた。
「じゃあ、新一気をつけて帰るんじゃぞ。」
車のエンジンを切り、車から降りていった。
「ああ。」
そして博士は家の入っていった。彼はまっすぐ帰宅。
「工藤くん。」
私は彼を呼び止めた。
「あん?何だよ。」
「これ、あげるわ。」
小さなヒマワリ。さっきおじさんからもらったもの。
「私に花なんて似合わないから。それと、今日のお礼。話からすると一応提案してくれたのはあなたみたいだし。だから感謝の気持ちと…。」
「こんなのオレがもらってもなぁ。」
「あら、大事な彼女にあげればいいでしょ。きっと喜ぶわよ。じゃ。おやすみなさい。」
花は心の綺麗な、そう心が花のような人に似合うのよ。彼女のような…ね。
家に向かって歩き出す。
だから感謝の気持ちと……
「おい、待てよ、灰原。」
振りかえる。
「これ、やるよ。」
「これ…。」
「ああ、さっきのおじさんにもらったキーホルダーだよ。それなら邪魔にもなんね-だろ。」
「そうだけど…。」
「今日の思い出にしとけよ。思い出はたくさんあるほーがいいぜ。じゃ、これ、もらっとくぜ。」
彼は帰っていった。
「…。」
だから感謝の気持ちと…
ガチャ。
家に入る。
「おお、どうしたんじゃ、哀くん。」
「なんでもないわ。」
キーホルダーをポケットにしまった。
夕食を終え部屋に向かう。
「わたしのために今日はありがとう、博士。」
「なーに、哀くんが元気になるんじゃったら…ってどうしてしっとるんじゃ?」
「クス。」
部屋に入る。
「新一のやつ、言いおったな。」
博士が一人つぶやく。
ギッ…
椅子に座って、ポケットの中からキーホルダーを出した。
そして、机の上に置いた。
だから感謝の気持ちと……
キーホルダー…。
もらうつもりなんてなかったのよ。返そうと思った。
だって、これ以上あなたとの思い出は作りたくないのよ。
苦しくなるだけなのよ。
別れるときに辛くなるだけじゃない。
思い出はたくさんあったほうがいいなんて、
まったく、人の気持ちも知らないで、のんきな探偵さんよね。
でも、あなたは分かってないわ。
私があなたにヒマワリをあげたホントの理由。
ヒマワリの花言葉…。そう、あなたを見つめてる…。
これが、私があなたにヒマワリをあげた理由。
さすがの名探偵さんも分からなかったみたいね。
だから感謝の気持ちと…あなたへの想い。
「クス。まだまだ観察力が足りないわね。工藤くん。」
キーホルダーを机の上に飾ろうとした。
でもその手を止めて机の中にしまった。
ヒマワリの花言葉 あなたを見つめてる。
永遠の片思い。
でも…でも…まだ思い出にしたくない。
辛いけど素敵よね…。ヒマワリの恋は――――。
The End...
【原作:『名探偵コナン』】 コナン←哀
製作:KIKI
そんなにやさしくしないで…
そんなに気にかけないで…
そんなに話しかけないで…
そんなに…そんなに…その瞳で私を見つめないで…
その度に苦しくなる。
その度に切なくなる。
その度に愛しくなる。
ああ、どうすればいいの?こんな気持ち…。
今日もまた思いが募る。ただあなたに会うだけで。
だめ。気づいちゃ。決して。
「どうした、灰原?体調悪いのか?」
朝の登校。うつむいていた私に話しかける。
「別に。」
彼の顔を見て、また、そらす。
分かっているのよ。気にしてもどうしようもない事くらい。
「あんま、無理すんなよ。オメ-が倒れた何にもならねーし。」
その言葉に少し嬉しさと寂しさが混ざった。
何かを言い返す間もなく前から3人の声が前方から聞こえた。
「コナンく-ん、おはよう。灰原さんもおはよう。」
「おはようございます。コナンくん、灰原さん。」
「おっす、コナン、灰原。」
元気のいい3人が今日もまた、挨拶をくれる。
途中まで、彼と私の二人きりの登校。
ここから、いつもの5人で登校することとなる。
「おー。」
彼が言う。
「おはよう。みんな。」
私も続けて言う。
そのあと、不意にため息をもらし、またうつむいてしまった。
そしたら、
「どうしたの、灰原さん。何か元気ないよ?」
そんな私を見ていたのか、吉田さんが尋ねた。
「夏風邪ですか?灰原さん。」
そう、今は夏真っ盛り。
立ち眩みがするほど太陽の光がまぶしい。
蝉の声が絶えず耳に入る。
円谷くんの一声に、まさかみんなにそんな風に見えているなんて思わなく、
何て言おうか少し戸惑い、
「ちょっと、寝不足なだけ。ありがとう心配してくれて。」
少し笑みを見せてそう答えた。
「風引いた時は、オレは、うな重を腹いっぱい食うと直るぜ。」
「それは元太くんだけじゃないんですか?」
「やだ、元太くんったら。」
そんな会話を3人でしているのを後ろから眺めていた。
そんな光景が少し微笑ましく、笑みをこぼしていた。
今はとても平和。ほんとに平和そのもの。
組織にいたときのことをふと思い出した。
あの束縛されていた日々。
自由を求めることすら無意味の思えたわ。
もちろん、自由になりたいとも思わなかったケド。
でも、ある意味私には楽だったのかも知れないわね。
何も考えなくて済むもの。
与えられた事をやるだけでよかった。
今は薬を飲んで灰原哀という、もう一人の自分をつくっている。
この「灰原哀」になってからは、いろんな事が新鮮だわ。
今まで知らなかったこと、知らなかった感情があふれてくる。
それは、嬉しくもあるけど、苦しくもあるのよね。
でも、気づいちゃいけない。あの気持ちに。
そうよ、気づいたら最後。
きっとどうすればいいのか分からなくなる。
気づいたら、気づかれる。彼に、この気持ちが……
「…ら、…原!灰原!!」
「えっ!?」
彼の声に少し驚き振り向いた。
「ったく、そんなに体調悪いんだったら、休みゃいーのによ。」
「あら、心配してくれてるの?ありがとう。でも、私に優しくしたところで解毒剤の開発が進むわけじゃないわよ。」
「あのなぁ。」
教室に入る。太陽の光がいっぱい入るこの教室。
私の心の中とは反対にすごく明るい。
ほんと、眩しいくらいね。
椅子に座る。
小林先生の声が教室中に広がる。
一時間目の授業は国語。
一年生の国語の授業もなかなか興味深いものがある。
そしてまた一つため息。
「おい、ほんとに大丈夫なのか、灰原?」
彼が小さな声で私に語り掛ける。
「あら、さっきの登校の時といい、やけに優しいわね?何をお考えなのかしら?」
「あん?だーかーらー、別に何も考えてねーよ。ったく、人が心配してやってんのにマジでかわいくねーな。」
「江戸川くん!!」
小林先生の声で二人の会話が止まる。
「38ページから読んでくれる?」
小林先生は彼の横で少し立腹しているかのように言った。
「はーい…」
彼は渋々席を立ち朗読を始める。
周りの何人かはクスクスと笑っているのが聞こえた。
私はまたため息をした。
今の彼の言葉も、登校の時の彼の言葉も嬉しさと寂しさが交じり合って苦しくなる。
彼の心配は決して「私」じゃない。
APTX4869の解毒剤を作る一人の「科学者」に過ぎないのだわ。
別に「私」じゃなくても彼は今の言葉をかけるのよ、きっと。
でも…でも…
「はい、ありがとう。じゃあ、次は…」
彼の朗読が終わった。
「ふー。」
「クス。」
「何だよ。灰原?」
「別に。」
視線を彼から戻し、そして、横目でふと彼を見る。
でも…それでも…。
フッ、馬鹿よね。彼にはあの子がいるのに。
そう、私とはまるで正反対。
明るくて、気さくで、恋に不器用だけど、深く深く彼を思う温かい心。
どんなに傷ついても、彼を愛しつづける純粋な心。
ほんと、かなわないわ。
でも…あんな言葉でも…彼にとっては何の意味もなくても…たかが数秒でも…
私の心を包み込む。
私の心を占領する。
「…っ!!?」
いけない。ふと我に返った。
ダメ。気づいちゃダメ。
違うの。
人に優しくされたことがないから、こんな気持ちになるのよ。
「嬉しい」という気持ちなのよ。
それ以上になっちゃ…ダメ…
下校。
いつもの帰り道。夏の帰り道。
まだ日は高い。青い澄み切った空。真っ白な雲。…濁った色の私の心。
途中、吉田さんと円谷くん、小嶋君と別れ、彼と二人の帰り道。
特に何も話さず、ただ歩いていた。
もしかしたら、彼は何か話してくれたのかもしれないけど、
私が聞いたのは、この一声。
「とにかく、今日はゆっくり休めよな?」
私はうつむいたまま。一段と濁る心。
苦しいのよ、その優しい言葉が。
「んじゃ、オレ用あっから。」
そう言って駆けて行った。
「まだまだ,暑いわね…。」
ふと見上げた空。夕焼けが数時間後で見れる帰り道。
「ただいま。」
「お帰り。哀くん。どうじゃった、今日の学校は?」
「特に変わったことはなかったわ。でも少し疲れたからもう休むわ。夕食もいらないから。」
「お、おい、哀くん。ほんとに大丈夫なんじゃろーな?」
博士がそう言い終わるとほぼ同時に私は部屋に入り、ベッドに横たわった。
……どうすればいいの?こんな気持ち。
明日もまた思いが募る。ただあなたに会うだけで。
「ん…。」
頭を少し押さえ時計を見た。
「6時…?…フフ。私…あのまま寝ちゃったのね。」
キッチンの方に足をはこぶといい匂いが漂ってきた。
「おはよう、博士。」
「おお、哀くん、体の調子はどうじゃ?」
「ええ、もう何ともないわ。それより博士。朝食でも作ってるの?」
「そうじゃ。哀くんが元気になるように特製の朝食じゃ。」
テーブルに置いてある、ほぼ出来あがっている料理を見る。
料理自体は、卵焼きやらタコさんウインナーやら、
まるで小さい子のお弁当のおかずのようだった。
はたから見れば「普通」の朝食に過ぎないのだが、
博士が一生懸命私のために作ってくれた朝食は「特製」に他ならなかった。
朝食の準備を済ませ、2人でその特製の朝食を食べる。
「そうじゃ、哀くん。今日は暇かね?」
突然博士が尋ねた。
「えっ!?」
「何かあるのかね?今日は第2土曜日で学校はお休みのはずじゃろ?」
「え…ええ、一応あいてるわ。」
「そうか、それは丁度よかったのう。」
そうだったわね。今日は休みだったわね。
そんなことも分からなくなるほど、思いつめていたにかしら。
でも、今日は彼に会うこともないわけよね。
今は、彼の顔を見るだけで胸が苦しくなる。
会うこともなければ幾分かは楽になるのかしらね。
でも、会うのが辛いのに、会えない日はもっと苦しいのよね。
ホント、どうにかしなければならないのに、どうすることも出来ないこの想い。
とにかく彼のことは考えない方がいいわね。
今日は一人の「科学者」として、解毒剤を進めることに専念しなくちゃ。
そんなことを思い巡らしていた時、さっきの博士の言ったことが気にかかった。
「ねえ、博士。」
「なんじゃ、哀くん。」
箸の動きが止まる。
「さっき、丁度よかったって言ってたけど、それってどういう事?」
「おお、そうじゃった、昨日みんなから電話があったんじゃ。」
「みんな?」
「歩美くんたちじゃよ。それでみんなでドライブでも行こう、ということになったんじゃ。みんな哀くんのことを心配しておったしのぅ。」
少しドキッとし、箸が止まった。…“みんな”…
「ええ、わかったわ。」
ためらいながらもそう答えた。
「そうか。そうと決まったら、さあ支度じゃ、支度じゃ。えっと免許証はどこに置いたかのぅ…。それから…」
博士の様子をこちらから見て
「クス。」
笑い声が少し漏れた。
朝食の後片付けをしながら思った。“みんな”という事は、休みの日にも彼に会わなくちゃいけないのかしら。困ったものね。
“みんな”でドライブ…か…
窓の外を見た。冴え渡る青空。気温もかなり高くなっている。
博士が支度を始めてそれから約2時間後。
丁度私が外に出た時
「灰原さーん、おはよう。体の具合はどう?大丈夫?」
声にする方に振り向いてみるといつもの3人が走ってくるのが見えた。
「ええ、もう何ともないわ。」
「よかったー。」
吉田さんのかわいらしい笑顔がこぼれた。
「今日は本当にいい天気ですね。」
「絶好のドライブ日和だぜ。」
「そうね。」
円谷くんと小嶋君の声にうなずき、空を見上げた。
ほんとにいい天気。雲一つないわね。
「あれ-、コナンくんは?」
吉田さんは寂しそうな声でそう言いあたりを見渡した。
すると、後方から
「なんだオメーら、やけにはえーじゃねーか。」
その声に少し耳を傾けながらも、体が顔を合わせるのを拒んだ。
「博士~。まだ車のキー見つからないの?」
そう言って、彼らから離れて家の中に体を運んだ。
数分後、私がキーを見つけ、博士と共に外にでた。
「まったく、遅いですよ、博士。」
「そうだよ。みんなもう来てるのに。」
「おれ、なんかもう腹減ったなぁ。うな重くいてえ。」
「まったく、元太くんは食べ物のことばかりですね。」
「なんか文句あんのか、光彦。」
「もう、やめなよー。元太くんも光彦くんも。」
3人のこんな会話を後ろから聞いていた。
すると、
「ったく、あいつら、何であんな元気なんだ?」
彼が私のそばまで歩み寄る。彼の横顔を見た。
「あなたは元気っていう感じではなさそうね?」
「ああ、夜遅くまで本読んでたからな。少し寝不足なんだよ。」
「あら、別に無理して来なくてもよかったのよ。ただのドライブらしいから。」
すこし嫌味っぽく言った。
「まーな。」
「コナンくん、灰原さん、早く!早く!」
もう車に乗りこんでいた吉田さんが叫んだ。
円谷くんも小嶋君も、そして博士ももうすでに車に乗りこんでいた。
「ああ。」
そう言って彼は車に乗り込んだ。そんな彼を無意識に目で追っていた。
「灰原さんも早く!」
吉田さんの声で我に返った。
「ええ。今行くわ。」
私が車の前に乗ると
「しゅっぱーつ!!」
3人が声をそろえていい、博士がエンジンをかけ車が動き出す。
何でも博士は先日洗車をしたらしく、車はかなり綺麗だ。
もちろん今日のためというわけではないのだが、
綺麗な車でドライブするのは気分がいい。
車を出してすぐ高速に入った。
みんなとても楽しそうに見える。
もちろん憂鬱な私と乗り気でない彼を除いて。
「なぁ博士、何も高速に乗らなくてもい-んじゃね-か?」
後部の座席に3人と座っていた彼が身を乗り出して博士に尋ねる。
「何を言っとるんじゃ、もとはと言えば新一、おまえが…」
「お、おい博士!」
何かはわからないけど彼のこの慌て振り。
このドライブにはどうやら彼も関係があることが分かった。
でも、それとなしに聞いてみた。
「何?このドライブで何かたくらんでいるの?」
「別になんでもねーよ。」
彼はそういうと乗り出していた体を後ろに戻した。
それから数時間、間に休みを取り、車は走りつづけた。
ピー,ピー,ピー
車のバックする音が遠くに聞こえた。すると、
「ほれ、着いたぞ。」
博士がそう言って、目が覚めた。
いつのまにか寝入ってたみたいだった。私だけなく、彼もそして3人も。
最近ろくに寝てなかったから、なんだか気持ちがよかった。
体を起こしてみると、
「わぁー、すっごーい。」
「まさに絶景ですね。」
「うぉー、すっげー。」
3人が一目散に車からおり駆け出す。
私は、車の窓から息をするのも忘れるくらい、その光景に心が奪われた。
一面のヒマワリ畑。
「すっげー数だな。」
後部座席にはまだ彼がいた。そう言って彼も車から降りた。
最後に私と博士が降りる。
降りたところは高台になっていて、その光景を上から眺められる絶好のところだ。
高台の端には階段があり、下にも下りられるようになっているらしい。
「どうじゃ、哀くん。」
「すごいわね。こんな所、はじめて来たわ。」
地平線のどこまでも続きそうなくらいのたくさんのヒマワリ。
夏の太陽をいっぱい浴びて、どのヒマワリも大きく育っている。
今が一番の見時でもあるかのように、
そのヒマワリのどれを見ても、綺麗に咲いていた。
「ほんと、綺麗ね。」
「気に入ってもらえたかの、哀くん。」
「ええ、とっても。ところで、あの子達は?さっきから姿が見えないけど。」
「子供達なら、ほれ、あそこの階段で先に下に降りていったはずじゃ。下はこのヒマワリ畑の中を歩けるはずじゃ。哀くんも行くかね?」
「私はもうしばらくここにいるわ。それから下に行くから。ここの景色、すごく綺麗だし。」
「そうか、それじゃ、先にいっとるぞ、哀くん。」
そう言って博士は走ってあの子達の跡を追っていった。
確かに、あの3人じゃ、何をやらかすかわからないから、心配になるのも分かる気がした。
「おめーにも惹かれるものがあるんだな。」
後ろから不意に彼が言った。
「あら、いいでしょ。それよりどういうこと?さっきの車の中での会話。」
「ああ?だから、車でも言ったろ?別に何も考えてねーよ。ただ、昨日博士から電話があったんだよ。」
「博士から?何て?」
そう尋ねると彼は昨日のことを淡々と話始めた。
ルルルルルル…ルルル…
「はい、毛利探偵事務…」
「おお、新一君か。丁度よかった。」
「何だよ、博士。何か新しい発明品か?」
「いや、そうじゃないんじゃ。哀くんのことじゃよ。」
「灰原?」
「おお、そうじゃ。最近なんだか元気がないみたいでのぅ。新一、なんか心当たりないか。」
「別に特に何も思いあたらね-よ。まぁ、確かに最近あいつの様子はおかしいけどな。」
「何とかならんかのぅ、新一。何とかしてやりたいんじゃが…。」
「んなこと言われてもなぁ。んじゃ、明日休みだし、どっか連れてきゃい-んじゃね-の?気もまぎれるだろうし。」
「おお、そうか。それはいい考えじゃ。じゃ、明日家で待っとるからの。早く来るんじゃぞ。」
「お、おい博士。オレも行くのかよ。」
「あたりまえじゃ。ちなみに子供達もわしから誘っとこうかの。それじゃ、新一。明日待っとるぞ。」
「お、おい博士、博士。」
ツーツーツー
「ったく、切っちまいやがった。何でオレまで行かなきゃならねーんだ?」
「…っつー訳だよ。」
「なるほどねえ。」
そういえば、朝、博士は吉田さん達から電話があったって言ってたけど、あれはウソね。
「どうせ組織のことでも考えてたんじゃね-のか。」
「…そうね。組織のことを考えてたのなら、まだよかったでしょうね。」
「はぁ?」
やっぱり何も分かってないわね。工藤くん。
「ほら、早く下に行った方がいいわよ。工藤くん。あそこで吉田さんが手を振ってるわよ。早く行きなさいよ。」
「オメーはどうすんだよ?」
そう言った彼の顔は私を見ていたと思うが、私は敢えて彼の顔を見ようとはしなかった。
「もう少しここの景色を堪能してから行くわ。」
「そっか。」
彼はみんなのところへ駆けて行った。
…それにしても、ホントに一面のヒマワリ畑ね。
夏の花と言えばやっぱりヒマワリかしら?
花は見ていて、無条件で嬉しくなるものよね。
心が洗われる感じね。
博士がここに連れてきたのも、そういう理由かしら。
どういう理由にしても、博士にも心配かけちゃったのね、私。
だめね、周りが見えなくなっちゃうなんて。
でも、今の私にとってヒマワリは、なんだか胸が苦しくなってくるわ…。
ここにあるヒマワリ全て、太陽を見つめているのよね。
ヒマワリには太陽は必要不可欠。
太陽なしでは生きていけないのよ。
でも、太陽は明るくて…みんなの人気者。
そう。みんなの太陽だから、決してヒマワリだけには振り向かない。
もちろんヒマワリに振り向いてくれるときもあるんでしょうけど。
いつもいつもヒマワリだけを見ていてくれるわけじゃない。
でも…ヒマワリは太陽を見つめつづける。
曇りの日でも雨の日でも太陽を探し、太陽を求めつづける。
片思い。
その想いが決して叶わないことを知っている。
叶わない恋でも、命がなくなるその日まで、太陽を追いつづけるのよね…。
ズキッ。
「っ……。」
どうして…?どうして、こんなにも胸が苦しいの?
もしかして逃げてるの、私?
この気持ちから逃げたくて、逃げたくて…
だから気づかない振りをしているの?
弱いわね…私。
ヒマワリはこんなにも強いのに…。
でも…逃げたくもなるわね。
こちらの太陽はもう相手を見つけているもの。
ヒマワリとは違う相手を…ね…。
「さてと、みんなの所に行こうかしら。」
端の階段をおり、みんなの所に合流した。
日がだいぶ傾いてきた。夕日がヒマワリを輝かせまた一段と美しく見える。
「さて、そろそろ帰ろうかのぅ。」
「えー、歩美、もう少しここにいたい。」
吉田さんが少し駄々をこねたとき、
「そうだ、お嬢ちゃん、このヒマワリをあげよう。」
さっき私が階段で下に下りていくときに会ったおじさんが言った。
どうやらこの人がヒマワリの世話をしたりしているらしい。
「ほら、どうぞ。」
「わぁー、ありがとう。おじさん。」
小ぶりの花のヒマワリをもらっていた。
丁度手のひらくらいの花の大きさだった。
どうやら、大きいものだけがヒマワリというわけではなさそうだ。
「はい、こっちのお嬢ちゃんも。」
「えっ!?」
突然のことでびっくりした。
私の目の前にも、かわいらしい小さなヒマワリが揺れた。
「でも…。」
少しためらった。
「灰原さんももらいなよ。ほら、すっごく綺麗だよ。」
「じゃあ、いただこうかしら。」
そう言って、わたしはおじさんからヒマワリを受け取った。
ホント、私には綺麗過ぎね。
「ほーら、ぼうずたちにはこれをやろう。」
おじさんはポケットに入れていたものを出した。
小さなヒマワリのキーホルダー。
どうやらこのおじさんは、かなりのヒマワリ好きみたいだった。
普通ポケットからキーホルダーなんてでてくるものじゃない。
おじさんはそう言って3人に渡した。
それから車に乗りこんだ。
おじさんに手を振りようやく私達は帰ることとなった。
「へー。オメーでもそーゆーのもらってうれしいんだな。」
車を出したときからずっとヒマワリを見ていた。
30分ぐらいは後部座席で今日のことで盛り上がっていたが、
子供達が寝てしまったらしく、ずいぶん静かになった所、彼の声が聞こえてきた。
「ヒマワリは…」
一瞬言うのをためらった。でも、
「ヒマワリは強いのよ。誰かとは違って、辛いことから逃げないのよ。」
「はぁ?何言ってんだ、オメー。」
「…」
私、逃げてたのよ。自分の気持ちから。
「オメーら着いたぞ。起きろよ、歩美、光彦、元太。」
彼が起こす。3人とも渋々起きた感じだ。
「今日はありがとうございました、博士。」
「コナン、灰原、夕飯いっぱい食えよ。」
「まったく元太くんは食べ物のことばかりですね。」
「なんだと、光彦。」
「じゃあ、月曜日にね。バイバイ、コナンくん、灰原さん。」
そう言って3人は帰っていった。
「どうしてあなたがまだ乗ってるのよ。」
「別にいーだろ。博士ん家からのが近いんだよ。」
少し経って博士のうちにたどり着いた。
「じゃあ、新一気をつけて帰るんじゃぞ。」
車のエンジンを切り、車から降りていった。
「ああ。」
そして博士は家の入っていった。彼はまっすぐ帰宅。
「工藤くん。」
私は彼を呼び止めた。
「あん?何だよ。」
「これ、あげるわ。」
小さなヒマワリ。さっきおじさんからもらったもの。
「私に花なんて似合わないから。それと、今日のお礼。話からすると一応提案してくれたのはあなたみたいだし。だから感謝の気持ちと…。」
「こんなのオレがもらってもなぁ。」
「あら、大事な彼女にあげればいいでしょ。きっと喜ぶわよ。じゃ。おやすみなさい。」
花は心の綺麗な、そう心が花のような人に似合うのよ。彼女のような…ね。
家に向かって歩き出す。
だから感謝の気持ちと……
「おい、待てよ、灰原。」
振りかえる。
「これ、やるよ。」
「これ…。」
「ああ、さっきのおじさんにもらったキーホルダーだよ。それなら邪魔にもなんね-だろ。」
「そうだけど…。」
「今日の思い出にしとけよ。思い出はたくさんあるほーがいいぜ。じゃ、これ、もらっとくぜ。」
彼は帰っていった。
「…。」
だから感謝の気持ちと…
ガチャ。
家に入る。
「おお、どうしたんじゃ、哀くん。」
「なんでもないわ。」
キーホルダーをポケットにしまった。
夕食を終え部屋に向かう。
「わたしのために今日はありがとう、博士。」
「なーに、哀くんが元気になるんじゃったら…ってどうしてしっとるんじゃ?」
「クス。」
部屋に入る。
「新一のやつ、言いおったな。」
博士が一人つぶやく。
ギッ…
椅子に座って、ポケットの中からキーホルダーを出した。
そして、机の上に置いた。
だから感謝の気持ちと……
キーホルダー…。
もらうつもりなんてなかったのよ。返そうと思った。
だって、これ以上あなたとの思い出は作りたくないのよ。
苦しくなるだけなのよ。
別れるときに辛くなるだけじゃない。
思い出はたくさんあったほうがいいなんて、
まったく、人の気持ちも知らないで、のんきな探偵さんよね。
でも、あなたは分かってないわ。
私があなたにヒマワリをあげたホントの理由。
ヒマワリの花言葉…。そう、あなたを見つめてる…。
これが、私があなたにヒマワリをあげた理由。
さすがの名探偵さんも分からなかったみたいね。
だから感謝の気持ちと…あなたへの想い。
「クス。まだまだ観察力が足りないわね。工藤くん。」
キーホルダーを机の上に飾ろうとした。
でもその手を止めて机の中にしまった。
ヒマワリの花言葉 あなたを見つめてる。
永遠の片思い。
でも…でも…まだ思い出にしたくない。
辛いけど素敵よね…。ヒマワリの恋は――――。
The End...